職種別活用
採用AI活用は違法になるか|職業安定法・リクナビ事件に学ぶ「使っていい/ダメ」の線引き

結論
「採用でAIを使っていいか」に単純なイエス/ノーはありません。境界線は、応募者の適性・能力に関係のない情報を、AIが収集・判断材料にしていないかという一点にあります。書類選考の一次チェックであれ、対話型のAI面接であれ、この境界を越えると職業安定法・個人情報保護法上のリスクが生じます。2019年の「リクナビ事件」は、この境界を越えた実例として今も参照される事案です。
職業安定法が定める「収集してはならない情報」
厚生労働省は採用選考の基本原則として、「人を人として見る」人間尊重の精神と、応募者の適性・能力に基づいた基準で採用選考を行うことの2点を挙げています。職業安定法第5条の5および同法に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)により、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などは、原則として収集が認められません。具体的には、本籍・出生地や家族の職業・続柄など「本人に責任のない事項」、思想・信条や支持政党など「本来自由であるべき事項」が、収集してはならない情報として挙げられています(出典参照)。この規制はAIの利用を想定して作られたものではありませんが、AIが履歴書や面接データから収集・推定する情報にも、当然この規制は及びます。応募用紙に直接記入させなくても、AIが文面や発言パターンから思想信条や出身地を推定してスコアに反映するような設計であれば、同じ問題が生じます。
書類選考支援AI(ATS等)を使うときの実務上の境界
書類選考の一次チェックにAIを使うこと自体は、人事担当者のためのAI活用ガイドで解説した通り、あくまでマッチ度を提示する補助として使い、最終判断を人が行う設計であれば、現在広く使われている実務です。ここで注意すべきは、そのAIが何を根拠にマッチ度を算出しているかです。募集要件(必須スキル・経験年数等)との照合であれば適性・能力に基づく判断ですが、学習データの偏りにより、性別・年齢・出身校といった属性と相関する特徴量が結果的にスコアに影響している場合、意図せず職業安定法の趣旨に反する運用になりえます。導入時に「何を入力データとして使っているか」をベンダーに確認することが、実務上の最初の防御線になります。
AI面接(対話型AIによる面接評価)という新しい論点
近年広がっているのが、対話型AIが直接応募者と面接を行い、評価まで行うサービスです。国内で普及が進むサービスの一つ「SHaiN」(タレントアンドアセスメント社提供)は2026年3月に導入企業1,000社を達成したと発表しており(出典参照)、新卒・中途・アルバイト採用のほか昇進・昇格試験にも使われています。同社の公式サイトでは、AIが面接を行うことで評価のばらつきを抑え、合否基準を統一できるとしています。
ただし、書類選考支援AIと同じ論点がAI面接にも当てはまります。評価アルゴリズムが「適性・能力」に直接関係する応答内容を評価しているのか、それとも学習データに含まれる話し方の癖といった、属性と相関しうる特徴量まで拾ってしまっているのかは、外部からは見えにくい部分です。同社は自社ページでEU AI規則(EU AI Act)の基準を満たしているとしていますが(出典参照)、日本国内ではAI面接そのものを名指しで規制する法律は現時点でなく、既存の職業安定法・個人情報保護法の一般原則の中で運用されているのが実情です。「AIが評価しているから客観的」と早合点せず、評価基準が適性・能力に基づいているかを確認する責任は、導入する企業の側に変わらず残ります。
「リクナビ事件」に学ぶ——同意なきデータ提供のリスク
採用×個人データの分野で最も参照される事案が、2019年の「リクナビDMPフォロー」問題です。リクルートキャリア(当時)は、就職情報サイト「リクナビ」の閲覧履歴等から算出した学生の内定辞退率スコアを、契約企業に提供していました。
- 2019年9月6日:東京労働局は、同サービスが職業安定法および同法に基づく指針に違反していたとして、リクルートキャリアに対し、募集情報等提供事業全体の点検・是正や再発防止策を講じるよう指導しました(出典参照)。
- 2019年12月4日:個人情報保護委員会は、リクルートおよびリクルートキャリアに対し、個人情報保護法(2019年当時の条文番号で第42条第1項)に基づく勧告、および同法(当時の第41条)に基づく指導を行いました。公式発表によれば、スコア提供の対象学生は95,590人、そのうち適切な同意を得られていなかった学生は26,060人、実際にスコアの提供を受けた企業は35社にのぼりました(出典参照)。
この事案の教訓は、「AIでスコアを算出したこと」自体ではなく、本人の同意なく、特定の個人を識別できる形でデータを第三者(採用企業)に提供したことが問題だった点です。AI採用サービスを導入する側にも、委託先が適切に同意を取得しているかを確認する責任があります。
実務チェックリスト:使っていい/注意が必要/明確にダメ
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 使ってよい | 募集要件との照合による一次スクリーニングの補助(最終判断は人)/構成案・下書きの作成/面接メモの要約 |
| 注意が必要 | AIのマッチ度・スコアだけで合否を決める運用/評価アルゴリズムの入力データの中身を確認していない状態での導入 |
| 明確にダメ | 本籍・思想信条・支持政党など適性・能力に関係のない情報の収集・利用/本人の同意なく応募者データを外部の採用支援サービスに提供すること |
注意:この記事は一般的な情報整理であり、法的助言ではありません
この記事は公開されている公式情報を基にした一般的な整理です。個別の採用フローが職業安定法・個人情報保護法に照らして適法かどうかの判断は、社内の法務担当者または弁護士に確認してください。機密情報・個人情報の入力可否の一般的な判断基準は社内情報をAIに入力していいか迷ったら、人事のタスク別のAI活用は人事担当者のためのAI活用ガイドもあわせてご覧ください。
Sources
FAQ
- 書類選考にAIを使うと職業安定法違反になりますか?
- AI自体の利用が違反になるわけではありません。応募者の適性・能力に関係のない情報(本籍・思想信条など)を収集・判断材料にした場合に、職業安定法第5条の5および指針(平成11年労働省告示第141号)に違反する可能性があります。AIの出力にこうした属性が紛れ込んでいないかの確認が実務上の要点です。
- AI面接を導入すれば選考は公平になりますか?
- 必ず公平になるとは言えません。評価アルゴリズムの学習データに偏りがあれば、特定の属性が不利になるリスクは人間の面接官と同様に残ります。対話型AI面接サービスの導入は広がっていますが(SHaiNは2026年3月に導入企業1,000社達成と発表)、評価基準が適性・能力に基づいているかを確認する責任は導入企業の側にあります。
- 応募者情報をAI人材採用サービスに渡す前に何を確認すればいいですか?
- 少なくとも、①応募者への利用目的の説明と同意取得、②提供先が特定の個人を識別できる形でデータを扱っていないか、③外部サービスの学習利用設定、の3点です。2019年のリクナビ事件では、学生の同意を得ないまま内定辞退率スコアが企業に提供され、個人情報保護委員会の勧告と東京労働局の指導(職業安定法違反)の両方を受けました。
本記事は情報提供のみを目的とし、導入・契約・法務に関する助言ではありません。AIツールの料金・機能・規約は頻繁に変わるため、行動前に必ず記事内の公式リンクでご確認ください。社内情報・個人情報の取り扱いは、常に勤務先のルールを優先してください。